ババの生地は、なぜ崩れず、なぜ乾かないのか
ババの生地は、シロップを吸っても崩れない強さと、乾かないしっとりさを両立させています
ふうちゃんシェフ、ババってシロップにどぶんと浸けても崩れないよね。でも中はしっとりしてて。



いいところに気づきいたね。ババはもともと、乾いてしまったクグロフを活かそうとして生まれたお菓子なんだよ。



乾いたパンを、シロップで蘇らせたってこと?



そうなんだよ!だから今も職人は同じ課題と向き合っている。崩れない強さと、乾かないしっとりさ、その両立なんだよね。
生地は、なぜこう作られているのか
ブリオッシュとの違い
ババの生地は、ブリオッシュと目指すところが違います。ブリオッシュは、それだけで美味しく食べられることを目指す生地です。一方でババの生地は、シロップをたっぷり吸い込むための「器」。生地そのものが主役ではないのです。
そのため、ババの生地はブリオッシュより砂糖が少なく、しっかりと丈夫に作られます。甘さは生地が持つのではなく、あとから含ませるシロップにお任せする、というわけです。
崩れない理由
グルテンの網目と「腰」
崩れない一番の理由は、生地の中にしっかりとした「網目」ができているからです。粉に水と力を加えると、粉の中のたんぱく質どうしがつながって、細かい網目のような構造ができます。これがグルテンで、生地の骨組みになるものです。職人はこの状態を「腰(コール)が出た」と表現します。目安は、生地の表面がなめらかになり、ボウルの側面から自然に離れるようになったとき。この網目がしっかりしているほど、シロップを含んでも形が崩れにくくなります。


砂糖を控えめにする理由
砂糖が控えめなのも、実はこの網目と関係しています。砂糖には生地をやわらかくする働きがあるので、あえて少なめにすることで、網目を強く保っているのです。
バターを最後に入れる理由
網目を壊さないため
バターを最後に加えるのは、先に入れてしまうと、この網目ができにくくなるからです。油は粉のつぶをコーティングしてしまい、たんぱく質どうしがつながるのを邪魔してしまいます。だから、まず網目をしっかり作ってから、バターを加えるという順番になっているのです。
冷たいバターを使う理由
バターを冷たいまま使うのにも理由があります。長く捏ねているうちに生地の温度が上がりすぎるのを防ぐためです。これはババに限らず、ブリオッシュ生地全般に共通する考え方です。
イーストと塩を離して入れる理由
イーストと塩を直接触れさせないのは、塩がイーストの発酵する力を弱めてしまうからです。そのため、ボウルに材料を入れるときは、イーストと塩を離した場所に置くのが基本です。この点は、参考にしているStohrerのレシピ本にも、注意点としてはっきり書かれています。
(出典:Le livre de pâtisserie Stohrer/Jeffrey Cagnes/Éditions du Chêne/2020)
焼き上げてから、シロップを含ませるまで
焼く温度と時間の目安
型と発酵の見極め
焼く温度と時間は、だいたい180℃前後で20分くらいが目安です。ただ、型の大きさやオーブンの癖によっても変わるので、それより大事なのは焼く前の準備です。型には高さの半分くらいまで生地を入れ、縁まで届くくらいしっかり発酵させてから焼きます。
冷めてから含ませる
焼き上がったら網の上で冷まし、シロップを含ませるのは、しっかり冷めてからです。


乾かない理由
気泡がシロップの通り道になる
乾かない理由は、いくつかの工夫が重なっているからです。まず、発酵のときにできる小さな気泡が、シロップの通り道になります。生地の中に空いた細かい隙間に、シロップがしっかり入り込んでいくのです。
ナパージュは乾燥を防ぐフタ
次に、シロップを含ませたあと、表面をナパージュ(あんずジャムなど)で覆います。これは見た目のつやを出すためだと思われがちですが、実は水分が飛んでしまうのを防ぐ「フタ」のような役割があります。
「うちでは、生地が吸い込める限界まで、シロップをしっかり行き渡らせるようにしています。最近はシロップをあまり打たない作り方も見かけますが、プチ・ラパンではこの昔ながらのやり方を大切にしています」(成生シェフ)
崩れてしまう原因
よくある3つの原因
シロップを含ませたときに崩れてしまうのは、よくある失敗です。原因は主に3つ。捏ねが足りない(さきほどの網目が弱いまま焼いてしまう)、焼きが足りない(生地がしっかり締まっていない)、そしてシロップの温度が高すぎる、または浸しすぎている場合です。
シロップにちょうどいい温度や浸す時間は、レシピや生地の状態によって変わるので、ここでは具体的な数字はお伝えしません。「熱すぎると崩れやすくなる」という方向だけ、覚えておいてもらえたらと思います。
アンビバージュという言葉
ちなみに、焼いた生地にシロップを含ませる工程には、フランス語で「アンビバージュ(imbibage)」という名前がついています。動詞は「アンビベ(imbiber)」=染み込ませる、という意味です。ババだけでなく、サヴァランやティラミス、シロップを打ったスポンジなども、この仲間になります。
ババはクグロフの子孫で、かつてはドライフルーツを生地に入れるのが定番でした。今はブリオッシュ生地が中心になっていますが、乾きと戦うという課題そのものは、昔から変わっていません。含浸のもうひとつの側面——洋酒がどのくらい残るのか、という話は、次の記事で詳しくご紹介します。


