シュー生地が膨らむ魔法の瞬間

まだ静かな厨房でオーブンのスイッチを入れる時、いつも少しだけ緊張します。今日もうまく膨らんでくれるだろうか。長年、何千回と繰り返してきたこの工程でも、その日の気温や湿度によって生地は微妙に変化します。小窓から覗き込むと、小さな生地がゆっくりと、しかし確実に膨らみ始めます。この瞬間こそが、シュークリーム作りで最も心躍る時間です。今日は、プチ・ラパンのシュークリームがどのように生まれるのか、その舞台裏をお話しさせてください。

目次

生地づくりの基本と、プチ・ラパンのこだわり

シュー生地づくりの基本

自宅でお菓子を作る人ならきっとよく知っていると思われるのが「シュー生地を焼いている間は絶対に扉を開けてはいけない」ということでしょうか。実はそれと同じくらい大切なことがあります。それは水分量。

シュー生地に入る水分は、卵と水や牛乳。卵は一つずつ大きさや卵黄と卵白の割合が違うので、全く同じにするのは 不可能に近い。水と牛乳を沸騰させるとき、火加減によって蒸発する水分量は変化する。粉を加えたあとの水分の飛ばし方によっても。

昨日と全く同じには作れない。だからこそ、昨日よりもっと美味しいものが作れる可能性がある。そうでないことも。それも含めて手作りの、美味しさ、面白さを楽しんでいただきたいと思っています。

基本に忠実だからこその素材

今流行りのクッキーシューでもないし、色んな味があるわけではない。だからこそ材料はなるべく良いものを使っています。

  • 発酵バター
  • フランス産小麦の小麦粉
  • 北海道根釧地区産生クリームと牛乳
  • マダガスカル産ブルボン種バニラビーンズ
プチ・ラパンのシュークリーム用カスタードクリームの材料。マダガスカル産バニラビーンズ、北海道産牛乳、卵黄、小麦粉

オーブンの中で起こる奇跡

シュークリームの焼成は大きく3段階に分かれています。

プチ・ラパンのシュークリーム焼成中のオーブン。温度は171度を表示

高温期

まず高温と蒸気で生地を一気に膨らませます。

プチ・ラパンでは200度で15分加熱しています。

中温期

焦げないよう温度を下げて、生地に火を通します。

プチ・ラパンでは180度で20分加熱しています。

低温期

乾燥させながら、皮をパリッとさせます。

プチ・ラパンでは150度で5分加熱しています。

これが答えではない

温度も時間もこれが正解というわけではありません。これまでも試行錯誤を繰り返しながら、今の段階ではこれがベストだと思って作っているということです。

そして、シュー生地は大きさの割に焼くのにとても時間がかかります。ですのでご購入の際は下で案内している予約方法で必要な量を早めに確保しておいてください。

失敗から学んだこと

忙しいお店にいたときに、一気に焼き上げようと思って天板にたくさん並べると、思ったように膨らみませんでした。おそらくたくさん並べすぎて熱が生地の間をうまく循環しなかったのだと思います。

そこでプチ・ラパンでは開店当初から一度に焼く数を絞って、なるべく良い状態でお買い求めいただけるようコントロールしています。

ですので、一度にお客様が集中するとすぐに品切れしてしまうのです。そうなると先の項目でお話したように、焼き上がるまでに1時間くらいかかってしまうのです。これではコントロールしているといえないかもしれませんが・・・。

重ねてお願いですが、ご自身のためだけではなく皆様の次にいらっしゃるお客様のためにも、できる限りご予約いただいてご来店いただけますようよろしくお願いします。

マダガスカル産バニラビーンズとカスタードクリーム

数年前、バニラビーンズの値段が10倍になるという出来事がありました。(その時のことはマダガスカルから届く宝物 – バニラビーンズ調達秘話の記事に書いていますので、ぜひこちらもご覧ください)プチ・ラパンのシュークリームのカスタードにも、少なくない量を入れていますので一大事件でした。

業者さんもこちらの事情をよくご存知なので、バニラの種入りの香料など、代替品の提案をたくさん持って来てくださいました。しかし、どれもプチラパンラパンのシュークリームと呼ぶにふさわしい味わいにはなりませんでした。

製菓用品としてのバニラビーンズを作るにはとても手間暇がかかります。その時間と熱意を代替するものなど存在しなかったのです。過去にプチ・ラパンのシュークリームが急に値上がりしたのはこのような背景がからでした。私たちは同じ価格で販売するよりも、プチ・ラパンの味を守ることを優先しました。

最近はようやくバニラビーンズの価格も安定して、最高値の4割くらいの価格で入荷するようになりましたが、まだまだ高値。香りのないバニラの種に香料で香りを付けただけのものを使って、バニラビーンズ入りを装っている商品もたくさん出回っていますので、本物は皆さんの感覚で嗅ぎ分けてください。(決してそれが必ずしも美味しくないというわけではありませんが、どうも装うという行為が私はあまり好きにはなれません)

マダガスカル産バニラビーンズの瓶。プチ・ラパンの厨房で撮影
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まとめ

シュー生地が膨らむあの瞬間は、実は魔法などではありません。厳選した素材、長年の経験による温度と時間の見極め、そして何より「今日も最高のものをお届けしたい」という想いが生み出すものです。

焼きたてのシュー皮に、マダガスカル産バニラビーンズをたっぷり使ったカスタードクリームを詰める瞬間、「今日もこの味をお客様に届けられる」という安堵と喜びが込み上げます。

手頃な価格でも、素材や製法に妥協はしません。毎日手作りで、一つひとつ丁寧に。それがプチ・ラパンが長年守り続けてきたこだわりです。

次回、プチ・ラパンのシュークリームを手に取っていただく時、このような工程と想いが込められていることを、少しでも感じていただけたら幸いです。あなたのご来店を、心よりお待ちしております。

【お店でお待ちしています】

プチ・ラパン
京都府長岡京市開田3丁目3番10号 ロングヒル内
営業時間:月曜定休
電話:075-951-0086

市役所から徒歩圏内、長岡天神駅からもすぐです。お仕事帰りやお昼休みに、ぜひお立ち寄りください。

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