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マダガスカルから届く宝物 – バニラビーンズ調達秘話

電球色の明かりの下、畳まれた麻袋の上に無造作に置かれたバニラビーンズの束

プチ・ラパンのシュークリームを食べた時、口の中に広がる豊かな香り。その中にある小さな黒いつぶつぶは、遠いマダガスカルという国から来た「宝物」なんです。

でも、この宝物を手に入れることが、最近とても大変になっているって知っていますか?

実は、バニラの値段がここ10年で10倍も高くなりました。一時期は、銀よりも高い値段で売られていたんです。なぜそんなことになったのか、今日はその秘密をお話しします。

目次

はじめに – 銀より高くなったバニラの話

大嵐がバニラを襲った日

世界のバニラの80%は、マダガスカルという小さな島国で作られています。だから、この国で何かあると、世界中のケーキ屋さんが困ってしまいます。

2017年3月、マダガスカルに「エナウォ」という名前の巨大な台風がやってきました。風速は時速220キロ。新幹線の平均的なスピードと同じ速さの風です。この台風で、バニラ畑の30%が壊れてしまいました。

バニラの木はとても育てるのが難しい植物です。花が咲いても、人の手で一つ一つ受粉させなければいけません。そして植え付けから収穫まで3〜4年もかかります。

台風の後、もっと困ったことが起きました。バニラの値段が上がると、泥棒がバニラを盗むようになったんです。農家の人たちは盗まれるのが怖くて、まだ未熟なバニラを早めに収穫するようになりました。

本来なら6〜9ヶ月かけてじっくり乾燥させるのに、それができなくなりました。その結果、品質の悪いバニラが市場に出回るようになってしまいました。

天然バニラと人工バニラ香料の違い

天然バニラと人工バニラ香料は、実は全く違うものです。ケーキ屋さんで使われる本物のバニラと、安価な人工香料にはどんな違いがあるのでしょうか。順番に見ていきましょう。

中に入っている成分が全然違う

天然バニラは香りのオーケストラだと思ってください。マダガスカル産の天然バニラには200種類以上の香り成分が入っています。これらがお互いに作用し合って、あの豊かで複雑な香りを作り出しているのです。

まるで学校の吹奏楽部のように、フルートやトランペット、太鼓など色々な楽器が一緒に演奏することで美しいハーモニーが生まれるのと同じです。天然バニラも、たくさんの香り成分が協力して、あの心地よい香りを作っています。

一方、人工バニラ香料は一人でラッパを吹いているような状態です。主に「バニリン」という単一の成分だけで作られています。確かに香りは強いのですが、天然バニラのような奥深さや温かみがありません。人工バニラは天然バニラの20倍から30倍も香りが強いのですが、その香りは単調で平坦なのです。

作り方が全く違う

天然バニラは手作りのケーキのように、とても時間と手間をかけて作られます。バニラの花を一つ一つ手で受粉させることから始まって、約9ヶ月かけて育て、収穫後も6ヶ月以上かけてじっくりと乾燥・熟成させます。全部で4〜5年もかかる長い道のりです。

この過程で、バニラビーンズは最初は緑色で香りもないのですが、熱湯で茹でて、太陽の下で乾燥させ、箱の中で熟成させることで、だんだんと黒くなり、あの甘い香りが生まれてくるのです。まるでワインの熟成のように、時間をかけることで味わい深くなっていきます。

人工バニラは工場で大量生産されます。石油や木材の加工時に出る材料を使って、化学的に合成して作ります。早ければ数日、長くても数週間で完成します。とても効率的ですが、手作りの温かみはありません。

また、発酵作業をしていないバニラの黒い粒(香りのしない種)を人工的な香料に浸しただけのものもあります。香料メーカーが天然バニラの高騰からケーキ屋さんを助けるために研究されていることは理解できますが、私は消費者であるみなさんを騙すようなこれらの商品が好きではありません。

香りの違いを感じてみよう

天然バニラの香りは、お花畑を散歩しているような気分になります。最初にふわっと甘い香りがして、次にクリーミーでマシュマロのような温かい香りが続き、最後にちょっとスパイシーで大人っぽい香りが残ります。

これは「香りの三段階」と呼ばれていて、香水と同じような仕組みです。時間が経つにつれて違う香りが楽しめるので、飽きることがありません。マダガスカル産のバニラは特にクリーミーで優しい香りが特徴です。

人工バニラの香りは、とてもシンプルです。甘いマシュマロのような香りはしますが、それだけです。強くてはっきりしているので分かりやすいのですが、天然バニラのような奥深さや変化はありません。例えば、CDで音楽を聞くのと、生のコンサートを聞くのと同じような違いがあります。

どちらも「バニラの香り」ではありますが、天然バニラの方が「生演奏」のように豊かで感動的な体験を与えてくれるのです。

本物と偽物の見分け方

お店で買い物をする時、天然バニラと人工バニラをどうやって見分けたらいいでしょうか?いくつかのポイントを覚えておくと便利です。

バニラビーンズそのものを見る時は、まず長さをチェックしてみてください。良質なマダガスカル産バニラは15cm以上あります。色は深い茶色から黒色で、触ってみると柔らかくてしなやかです。硬くてパリパリしているものは品質が低い証拠です。

面白いことに、高品質なバニラビーンズには白い粉のようなものが付いていることがあります。これは「バニリンの結晶」といって、品質が高い証拠なんです。カビではないので心配しないでくださいね。

商品のラベルを見る時は、原材料の表示をチェックしましょう。天然バニラを使っている場合は「バニラビーンズ」「バニラエキス」と書いてあります。人工バニラの場合は「バニリン」「人工香料」「香料」と表示されています。

値段も大きなヒントです。天然バニラを使った商品は、人工バニラを使ったものより明らかに高くなります。ただし、高いからといって必ず天然バニラとは限らないので、ラベルの確認は必須です。

健康面での違いはあるの?

これは興味深い質問ですね。実は、天然バニラには人工バニラにはない特別な成分が含まれています。

天然バニラには、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルが少し含まれています。また、体に良い「抗酸化成分」も入っているんです。これは、体の中の悪い物質をやっつけてくれる働きがあります。緑茶やブルーベリーに含まれているのと同じような成分です。

でも、ここで大切なポイントがあります。お菓子に使われるバニラの量は本当に少ないので、健康への影響はほとんどありません。シュークリーム1個に入っているバニラから、体に良い効果を期待するのは現実的ではないのです。

人工バニラは合成されたバニリンだけなので、これらの追加成分は含まれていません。ただし、普通に食べる分には、どちらも安全です。

つまり、健康面で選ぶというよりも、味や香りの好みで選ぶ方が現実的だということですね。

なぜ天然バニラはこんなに高いの?

この価格差は本当にすごいんです。天然バニラは人工バニラの約300倍も高いんです。なぜでしょうか?

理由を考えてみましょう。まず、作るのにとても時間がかかるということです。バニラの花を手で受粉させて、9ヶ月育てて、さらに6ヶ月以上かけて乾燥・熟成させる。全部で4〜5年もかかります。つまり、大学4年間と同じくらいの時間がかかるということです!

次に、全て手作業だということです。機械ではできない細かい作業ばかりなので、たくさんの人の手が必要です。マダガスカルの農家の人たちが、一つ一つ丁寧に作ってくれています。

さらに、天候に左右されるという問題もあります。世界のバニラの80%はマダガスカルで作られているので、そこに台風が来ると世界中のバニラが足りなくなってしまいます。最初にお話した通り、実際に2017年には大きな台風でバニラ畑の30%が被害を受け、価格が大幅に上がりました。

対照的に、人工バニラは工場で安定して大量生産できるので、いつでも安く手に入ります。天候の心配もありません。

小さなお店の大きな挑戦

プチ・ラパンのような小さなケーキ屋さんにとって、バニラの値段が上がるのは本当に大変なことです。一般的なケーキ屋さんの利益は、売上の4〜9%程度。材料費が上がると、すぐに経営が苦しくなります。

大きな会社のように大量買いで安くしてもらうこともできません。バニラの値段の変化を、そのまま受けるしかないんです。

でも嬉しいことに、お客様の半分以上は、良いものなら高くても買いたいと思ってくださっています。特に日本のお客様は、職人が作る本物の価値をよく理解してくださいます。

なぜプチ・ラパンは本物にこだわるのか

安い人工バニラに変えれば、材料費はぐんと安くなります。実際、多くのお店がそうしています。でも、私たちが20年間ずっと本物のマダガスカル産バニラを使い続けるのには、理由があります。

天然のバニラには200種類以上の香りの成分が入っています。この複雑で豊かな香りは、人工的に作ったバニラでは絶対に真似できません。

シュークリームのクリームで、あの温かくて優しい香りが立ち上がる瞬間。お客様が「やっぱりプチ・ラパンは違う」と感じてくださるのは、この香りがあるからなんです。

フランスのお菓子作りは、良い材料を使うことが一番大切だと考えています。技術だけでなく、素材への妥協のなさが、本当に美味しいお菓子を作るのです。

お客様に知ってほしい本当の価値

今使っている『マダガスカル産バニラビーンズ』は、厳しい品質チェックをクリアした最高級品です。500グラムという大きな袋で買うことで、品質を保ちながらできるだけ安く仕入れています。

このバニラは、マダガスカルの農家の人が手で摘んで、昔ながらの方法でじっくり作ったものです。一本一本が農家の人の1年間の努力の結晶なんです。

私たちは、信頼できる業者さんとお付き合いして、お客様に安定した値段でお菓子をお届けできるよう頑張っています。

これからも変わらない約束

バニラを取り巻く状況は、これからも厳しいかもしれません。地球温暖化で台風が増えて、マダガスカルのバニラ作りはもっと大変になると予想されています。

でも、だからこそ本物の価値が光ります。本物志向のお客様が増えている今、素材にこだわるお店の価値はどんどん高まっています。

私たちのバニラへのこだわりは、単なる材料選びを超えています。バニラビーンズ一本一本に込められた、農家の人の思いとお客様への愛情。それを大切にしたいんです。

本物の美味しさを求めるお客様へ

安い偽物がたくさん出回る中で、本物を見つけるのは簡単ではありません。でも、本当に美味しいお菓子には、本当に良い材料が必要だと私たちは信じています。

値段が高くても、複雑で困難な状況があっても、職人の心を理解してくださるお客様のために、私たちは本物のバニラを使い続けます。

一口のシュークリームに込められた、マダガスカルから長岡京までの長い旅の物語。ぜひ味わってみてください。きっとその違いを感じていただけると思います。


プチ・ラパンは今日も、遠いマダガスカルの農家の人たちが大切に育てたバニラビーンズを使って、心を込めてお菓子を作っています。

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